犬の歯石取りってどうなの?

愛犬のお口の悩みは、このところ大変増えています。
犬の口のにおいや、歯の汚れ、歯周病についてなどです。

犬の口のお悩みの中でも、歯石についての相談がナンバーワンです。
犬の歯にも人間と同じように歯石が付き、お口のトラブルを引き起こしているのが現状です。
それを知れば歯石を取ってあげたいと思うのは当然のこと。
犬の歯石取りは実際どうなのでしょうか。
 

犬の歯石取りについて

犬の歯石取りは主に、獣医師が医療行為として行うものです。
硬くなった歯石は歯ブラシでは取れません。
歯石になる前に毎日歯磨きをしてほしいところですが、それもなかなか難しいもの。
着いてしまった歯石を取る歯石除去について解説します。

犬の歯石除去のスタイル

歯石除去には大きく分けて二つの方法があります。

  • 犬を麻酔下において、処置する方法。
  • 犬に麻酔をかけずに処置する方法。

歯石取りは意識のある状態の犬を保定して歯石をとっていく無麻酔歯石取りと、
麻酔にかけて管理した状態で歯石を取っていく麻酔下の歯石除去があります。

どちらのケースも動物病院で行ってくれます。

犬を飼って数年後、生涯において1~2回程度獣医さんで麻酔下における歯石除去の処置を勧められるというのがほとんどではないでしょうか。
犬への負担や、費用の面から考えても歯石除去を医師から何度も勧めることは多くないはずです。

私は人間の歯科衛生士ですので、歯石除去の大切さはよくわかっています。
ですがやはり実際に愛犬に対して何度も歯石取りをさせるのは、お勧めできません。
その理由として挙げられるのは犬の場合、歯石が付着する歯のエナメル質という部分が人間と比較するととても薄いからです。
要するに、なんどもガリガリと歯石を取られることに適していないのです。

結果犬の生涯において人間のように数か月おきに歯石を取るというケースは、そう多くないと言えるでしょう。

歯石除去の問題点

基本的に歯石除去という行為は動物病院で獣医師が行うものを指します。
無麻酔での歯石取りについては、実際は二種類の現場で存在しています。

動物病院で動物への負担を最小限に考えて麻酔をかけずに歯石をとる方法があります。
これは国家資格を持つ医師が行うもので、安心できる無麻酔歯石取りです。

次に非常にグレーゾーンではありますが、一般化している問題があります。
実際に獣医師以外がサロン等でスケーリングと言われる歯石除去を行っているケースです。

獣医師以外に国家資格を持つものがいない動物業界です。
無免許のスタッフが認定資格を与えて歯石を取るビジネスをしているケースがほとんどになります。
人間では歯科衛生士と言えば国家資格保持者となります。
しかし、犬のハイジニストというのはあくまでも一般人になりますので医療行為を任せるのは疑問です。
実際トラブルが多く起きているため、私たち医療人としては全くおすすめできない現状が横行しています。

 

無麻酔歯石取りのメリット・デメリット

歯石がついていることを知ったら、まずは歯石を取りたいと考える飼い主さんは普通だと思います。
そこで手軽さから無麻酔歯石取りの業者やサロンを選ぶ飼い主さんも少なくありません。

犬の無麻酔歯石取りのメリット

犬の体への麻酔の負荷を考えれば、無麻酔の歯石取りにはメリットがあります。
細菌の絶対数を減らすことについては私も歯科衛生士なのでよく理解できます。
歯石除去こそが善良なケアであると信じて施術している人がいることは事実です。
当然麻酔を使用しない分、施術の価格も抑えられるし、検査や麻酔を行う犬の体への負担が少ない処置です。
時間も短く済む点はメリットだと言えるでしょう。

人間と同じように歯石の付いた場所をよく見える状態でキープできる子はほとんどいません。
集中力の続かないワンちゃんに、短時間で済ませられる処置なので、確かに簡単で負担が少ないといえます。

犬の無麻酔歯石取りのデメリット

無麻酔歯石除去は、動物病院以外ではトリマーや無資格の一般人が行っていることが大変多いのが現状です。
知識のない人が歯石をただ取り除くだけの作業なので無理やり嫌がる犬の歯石を取るケースもあり、犬が驚いてしまうこともあります。
その経験から犬がトラウマになったり、口を開けることを嫌がる犬を作ってしまうデメリットもあります。

また、犬の歯石除去を無麻酔で行った後に、犬が死亡したケースも起きています。
医療人ではない一般人による処置時の対応の是非や、犬の身体的な変化の見落としなどが原因であると推測されます。

無麻酔歯石取りは短時間で処置を済ませる必要性から、歯の表面を滑沢に仕上げる処置を省くケースが大変多いです。
人間界では歯の表面に歯石の再付着を防ぐためにこのようなケアは必須です。
犬の場合研磨をせずに過ごすとたった二か月以内で歯石の再付着が認められます。

素人判断で行う歯石取りの危険や問題点はこういったところに潜んでいます。
大切な愛犬の命をゆだねる先に少しだけ疑問を持ってもらえたら、と思います。

本来人間の歯石除去は国家資格を持った医師か歯科衛生士に限られます。
その理由は歯石除去は医療行為として、刃物を使用するため技術が必要だからです。
口腔内だけでなく、全身の健康状態についての知識を十分に持ち合わせたうえで、安全に処置を行うための訓練をしています。
よって国家試験を受ける権利を与えられて、ようやく国家資格を持てるのです。

そのような歯科衛生士という名前を簡単に無資格の一般人が名乗ったり、歯石除去を行っていることが現状です。

無麻酔歯石取りの注意点

無資格者の行う犬の歯石除去は、無麻酔のためあまり時間をかけられず研磨作業は省かれていることが多いのです。
短時間で一般人が行う作業では目に見えない小さな傷がたくさんつきます。
人間の場合は国家資格を持つ歯科衛生士が、刃物を扱うための訓練や知識を何年もかけて得たうえで国家資格を取得しています。
さらにその施術のあとにはきちんと研磨をかけて歯石の再付着を防ぐケアまでを一貫して行います。

しかし短時間で素人が行う作業には多くの場合研磨作業は省かれています。
そのため、微細な傷に汚れが付きやすくあっという間にまた歯石が着いてしまうということを生涯繰り返すことになってしまいます。
無資格者はまたついてしまった歯石を繰り返し取り、金銭を得る仕組みが出来上がるというわけです。
その間に薄い犬のエナメル質はどんどん削られてもろくなっていくのです。

資格を持たない人が安易に無麻酔で歯石を除去するという行為において、一時的な効果を期待することの是非は飼い主の責任に任されているといえるでしょう。

 

麻酔下での歯石取りのメリット・デメリット

歯石除去は本来刃物を使用する施術であり、それにおいては熟練した技術が必要です。

人間の歯科の考え方から言えば、しっかりとした医療知識を持ち、訓練を受けたものが行う施術です。
よって国家資格者である歯科衛生士か歯科医師以外には人間の歯石除去は認められていません。

犬においてはそういった規制、法律が明確でないため、取り締まることが簡単ではありません。

できれば信頼のおける獣医師の下で、処置をしていくことをお勧めします。

麻酔下での歯石取りのメリット

獣医師が行う歯石除去は、身体的に管理下に置いての施術になるので安心です。

さらに獣医さんと無資格者の知識量、技術量には大変大きな差があります。
安心して愛犬を任せられる点は大きなメリットになると言えます。
麻酔下で犬を固定しての施術になるので、歯石をしっかりと除去できます。
時間をかけてケアするため、術後の歯石の再付着の量は無麻酔のケアなし歯石除去とは比べ物になりません。

麻酔下での歯石取りのデメリット

それでも麻酔をかける、施術をする、という行為に何らかのリスクがあることは周知の事実です。

動物病院において行う処置とはいえ、麻酔下での歯石取りは愛犬への負担が大きいです。
この点については間違いなく大きなデメリットであると言えます。

まず、麻酔に耐えうる体力があるのか検査をします。
麻酔下に置かれる犬の呼吸器のコントロールを完全にしてから施術していくためです。
愛犬が全身麻酔をかける治療に耐えうるだけの健康状態があることが前提になります。
その検査自体もワンちゃんにとって、少なからず負担になっているといえるでしょう。

麻酔に耐えられると判断された場合も、飼い主と離れて施術を受けた後はしばらく管理下に置かれます。

全身麻酔の負担、麻酔から覚めたあとの急変などにより愛犬の死亡例というのもゼロではないのです。

当然これだけの施術の手間がかかるので、医療費が無麻酔に比べて高価になる点もデメリットになるでしょう。

 

このように歯石取りについては、麻酔のリスクをはじめとする数々のデメリットと、
歯石除去を行うことのメリットを天秤にかけて考えなくてはならないといえるでしょう。

ではどうしたら犬に歯石取りをさせずに済むのでしょうか。
答えとして、歯みがきが必須だということにたどり着きます。

歯石除去をくりかえすより、正しい歯みがきをコミュニケーションの手段の一つとして、愛犬に受け入れてもらうようにトレーニングしていくのが一番ベストな方法だといえます。
 

犬の歯石取り・まとめ

愛犬についた歯石はそのままにしておくと、口臭が気になったり、歯周病になっていきます。
多くの飼い主は歯石が付いたら取り除きたいはずです。

しかしそのリスクをよく知ったうえで考えて選択してほしいと思います。

犬の負担を考えると歯石が付いたら取る、という処置を繰り返すのはお勧めできません。

歯磨きを毎日の楽しいコミュニケーションの一つとして生活に取り入れることは大切です。
その結果として歯周病を防ぐことができるのであれば、とても素晴らしいことです。

そのように犬と共有する歯みがきの時間は、最終的に歯石をとるメリットを超えた利点になると言えるでしょう。

 

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